2013年8月8日木曜日

人生断章 (バートランド・ラッセル)

老人問題というのは、かなり以前からあった問題だったのでしょうか。
何気なく読み始めた「人生断章」で、「老年の脅威」という文があります。

曰く
「現代の最大の危機の一つが、ほとんどわれわれの知らぬ間に、しのび寄ってきている。医療技術が進歩したおかげで人間の寿命はのびたが、その能力の限界はもとのままである。」

「あと百年もすれば、人口のほとんどが、八十歳以上になるだろう。そのような老人はよたよたで、ぶつぶつとわけの分からぬ言葉をつぶやき、頭は完全にぼけているが、富と世間の尊敬と権力は持っている。彼らに取って代わる六十代の熱意ある後輩がいっぱいいるのに、彼らはすべての重要なポストにしがみつくであろう。」

このような危機を予見したスウィフトは、人並みはずれて長生きすると思われる人間は八十歳で投票権と財産を剥奪さるべしと示唆した。スウィフトの示唆はさすがであるが、すでに老人達はしっかりと権力を握って、スウィフトのこの考えの実現を食い止めてしまうだろう。六十歳以下のすべての医師は打って一丸となって若者を擁護し、高年層の寿命を伸ばすと思われる一切の医学的研究を阻止するように働きかけるべきだと、私は提案する。そのような運動の脅威に直面すれば、老人たちも彼らの権力を放棄する気になるであろう。権力を一旦取り上げられるならば、彼らは人の情けを受けてもよかろう。私ならば、彼らを南海の島に送ってしまう。そこでは酒は飲み放題、葉巻はたっぷり与えられ、きびしい検閲制度で特別な新聞が発行され、現在の世界は破滅に向かいつつあり、どこにもまったく改革がなされていない、という情報が与えられる。このようにすれば、この種の発達した医療技術のたそがれの時期もばら色になり、他方老人どもが若者を抑圧したり、世界の新しい状況への対応を妨げるおそれはなくなるだろう。」

4931.8.27


極論ではあるものの、このような内容を書ける人はいるだろうか。それも約100年前の論文です。

「人生断章」 (みすず書房) 中野好之・太田喜一訳から引用。

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